卒 業 を 祝 う 
三年担任のことば― 

1組 葛城  2組 三好  3組 志岐  4組 中野  5組 郡山
6組 土井  7組 小淵  8組 重富  9組 中本  10組 沢辺  11組 永田

校長 友永茂男

戻る
   おのれを見つめよ   友永茂男

 本校第三十回生として巣立ってゆかれる皆さん、ご卒業おめでとう。諸君は、本校入学以来、四八六名の一人一人が、「これだけはやってみたい」という目標をたて、その完遂の為に、精魂を傾けて努力し続けてきたことと思います。
 その間、諸君は、新校舎移転という稀な体験を持たれました。高校三年間の前半を旧校舎で、後半を新校舎で過したわけです。旧校舎での一年半において、三十年になんなんとする東高の旧き、良き伝統に育まれ、そこで体得したものをもととして、新校舎での一年半の間に、新生東高の新しき伝統の礎を築きあげるべく努力してこられました。このことは、現在の在校生は勿論のこと、更に続いて入学してくる後輩諸君の手によって承けつがれ、年と共に素晴らしい校風が樹立されてゆくものと大きな希望をもって見守ってゆきたいと思っています。
 かくて今、本校での生活を終了にあたり、過ぎし日々の反省と、明日への期待と不安が交錯する中で、新天地に向って、大きく翔こうとする闘志をたぎらせていることでありましょう。
 諸君と私とは、わずか一年間の短い縁(えにし)でしかありませんでしたが、今日、諸君とお別れするに当り、思うことの一端を申し述べてみたいと思います。
 現在、わが国は、外交問題、経済問題その他諸々の問題で随分難しい局面にたたされ、厳しい不況に見舞われておりますものの、日本人の秀れた英知と、独特の勤勉さによって、国民の生活水準は高まり、物的には豊かになって来ております。しかし、その反面、人間性の喪失とか、人間疎外などという、精神面での暗さについて論じられていることも亦事実であります。こうした世相の中にあって、諸君は今後逞しく生き抜き、各人の進んでゆくそれぞれの道における中心人物として、周囲の人々から属望される人に成長してゆく為に、毎日の生活の中で、自分の考え方なり行動なりを、じっくり顧みてゆく心のゆとりを持ってほしいものだと思っております。
 諸君はこれから、好むと好まざるとに拘らず、おとなの取扱いを受けるようになりますが、いま自分が、何をしなければならないかを自分できめる力を持っているのがおとなです。それも独りよがりでなく、家族や友人など身近な人々が、自分に何を期待しているのかということも考慮に入れて行動してゆく。そして、よしやその結果が失敗に終わっても、その責任はいさぎよく自分でとることの出来る人になってほしいのです。私達は、つねに集団の中におかれた自分を見つめる態度を失ってはなりません。おのれの属する社会の秩序を守り、常に謙虚にふるまい、隣人・朋友を愛し、少なくとも、他人に迷惑をかけることのないよう心がくべきだと思います。
 現実は、逆に、すべての発想が自己中心で、他人の幸福など、まるで顧みるいとまのない人があまり多いようです。もし今、すべての人々が、毎日の生活について反省しながら、自己の行動に責任をもち、自分を大切にすると同時に隣人愛にめざめ、おのれを取りまくすべての人に対して、まごころをもって接しようと努力するならば、真に明るい平和な社会が出来あがってゆくでしょう。諸君が、そうしたことの出来るおとなに成長してくれることを祈っております。
 ともすれば、くじけようとするたびに、ご両親を思い、母校に思いをはせ、よき友の愛情に支えられながら、健全な精神の持ち主となり、明日の日本を背負って立つ有為の人材に成長してください。
 なかなか意をつくしませんが、以上をもって餞の言葉とします。


   『東高新聞』第151号 昭和53年3月29日(水曜日)発行